たらちね まとめ 

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ある長屋に住む独り者の八五郎。大家さんに呼ばれ、「店賃の催促かい?」と勘ぐりながら戦々恐々と伺ってみれば、何と縁談話。相手の娘の『歳は二十』で『器量良し』、おまけに『夏冬のもの(季節の衣類・生活道具)いっさい持参』という大盤振る舞い。
独り者には願ってもない縁談、しかし話がうま過ぎる。不審に思った八五郎、大家さんに問いただしてみると、やはりこのお嬢さん『瑕』があった。
厳格な漢学者の父親に育てられたせいで『言葉が改まりすぎて――つまり馬鹿丁寧になってしまい、言うことが何が何だかわからなくなった』。かく言う大家も、先だって彼女に道で出会った途端『今朝は怒風激しゅうして、小砂眼入(がんにゅう)し歩行為り難し』とあいさつされ、仰天したらしい。
とっさに意味もわからず困った大家、そばの道具屋の店先に箪笥と屏風があったので『いやはや、スタンプビョーでございます』と答えて煙に巻いたという(タンスとビョーブをひっくり返して並べた。無論、意味はない)。
大笑いした八五郎、「そんなもの、言葉のぞんざいな俺の所にいればすぐに直る」と喜んで、嫁にもらうことにした。
気の早い話で、その日のうちに祝言をすることになり、早速床屋と銭湯に行って身奇麗にしてきた八五郎。七輪を取り出し、火を熾しながら夫婦生活に思いをめぐらせた。差し向かいで飯を食う様子を妄想したり、果ては気の早い夫婦喧嘩の一人芝居をする始末、世話を焼いてくれる隣のおかみさんをあきれさせる。その内、表が何だか騒がしくなって来る。
チャラコロチャラコロ……
大家さんが雪駄、お嬢さんが駒下駄でも履いて来たのかと、大喜びで飛び出すとそこにいたのは何と下駄と雪駄を片っ方ずつはいた乞食。ぬか喜びをさせられた八五郎が一人で大騒ぎをしていると、そこへ今度こそ本物のお嬢さんがやってきた。話に偽りなく美人のお嬢さんに、八五郎は大喜び。
さて、大家さんが帰ってしまい、二人きりになった所で八五郎がご挨拶。すると、お嫁さんの返事はとんでもないものだった。
「賤妾浅短にあって是れ学ばざれば勤たらんと欲す」
「なになに、『金太郎を干す』だって?」
訳がわからない。動揺しながらも名前を訊くと……
「自らことの姓名は、父は元京の産にして、姓は安藤、名は慶三、字を五光。母は千代女(ちよじょ)と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂の鶴を夢見て妾(わらわ)を孕めるが故、垂乳根の胎内を出でしときは鶴女(つるじょ)。鶴女と申せしが、それは幼名、成長の後これを改め、清女(きよじょ)と申し侍るなり」
単に名前を聞いただけなのに、両親の出自から自らの誕生秘話、幼名と改名に至るまで、全部漢文調で淀みなく並べ立ててのけたから大変である。八五郎はますます訳がわからなくなってきた。
あ然としつつも紙に書いてもらい、早速読んでみた八五郎。しかし、途中から読経の節になってしまい、最後には「チーン、親戚の方からどうぞご焼香を」。
そうしてともかくも「カラスカァで夜が明けて」……
お清さん、さすがに妻としてのたしなみで、夫より早く起き出して朝食を用意し始める。ところが、米がどこにあるか解らないので、寝ている八五郎のところへ尋ねに来た。
「アァラ、わが君! アァラ、わが君!」。
八五郎もびっくり、「その『わが君』ってのは俺のことかい? そのうち『我が君のハチ公』だなんて変なあだ名がつくから止めてくんねえ」と苦情を言い、何事かと訊くと「シラゲの在り処、いずくんぞや?」。
やっとそれが米のことだと分かり、米びつの場所一つを教えるのに汗だくになった八五郎はまた寝てしまう。お清さんの方は料理を再開するが、今度は味噌汁の具がなくて困った。悩んでいるとそこへ八百屋が行商にやってくる。
「これこれ、門前に市をなす商人、一文字草を朝げのため買い求めるゆえ、門の敷居に控えておれ」
芝居がかった言葉につい釣られ、八百屋も思わず「はぁはぁー!」と平伏してしまう。
そんなこんなでご飯になった。八五郎を起こす。
「アァラわが君。日も東天に出御(しゅつぎょ)ましまさば、うがい手水に身を清め、神前仏前へ燈灯(みあかし)を備え、御飯も冷飯に相なり候へば、早く召し上がって然るべう存じたてまつる、恐惶謹言」
今度は八五郎が釣られて
「飯を食うのが『恐惶謹言』、酒なら『依って(=酔って)件の如し』か?」

感想
お嬢さんがかわいくて良い。